「H.L.Yoh」社の独創的な開発内容についてフォーカスする後編記事だ。前回の記事に引き続き様々な計画案を紹介していくが、今回はついに「Yoh」シリーズにも搭載が計画された「予備履帯システム」についての内容が登場する。
しかも、「H.L.Yoh」社が計画していた「緊急時でも移動可能なシステム」は「予備履帯システム」だけでは無かったのだ……前回記事の内容は、まだまだ序の口。さらに驚愕の計画案をご覧いただこう。
「H.L.Yoh」社の計画案⑤: ドラム型自動装填装置
回転ドラム式弾倉による自動装填装置案だ。特徴的なのは、砲弾装填装置が閉鎖機(*9)と発火装置(*10)を兼ねている点だ。
リボルバー式拳銃のような弾倉であるドラム式弾倉に砲弾が収められており、この弾倉が回転して砲身軸上に砲弾を搬送する。装填動作は、弾倉後部にある装填装置がチャンバー内に砲弾を押し込むことで行うが、装填装置はその位置のままロックされ、閉鎖機としての役割を果たす。射撃時は、装填装置内の発火装置が作動する。射撃後、砲弾の炸薬が爆発することで発生したガス圧がポートを介して、装填装置のロックを解除。さらに残ったガス圧が薬莢をドラム式弾倉に押し戻すが、この時、薬莢は閉鎖機の役割を果たしていた装填装置ごと後退する。空薬莢はドラム式弾倉内に戻り、装填装置は弾倉後部の元の位置へ戻る。
車長の手元にあるコントロールパネルで希望する弾薬を素早く装填できるだけでなく、非常に早い連射を可能とする。さらに、弾倉は肉厚に設計されており、被弾時の砲弾への影響を最小限に食い止めることができる。
※10: 「発火装置」とは、砲弾の装薬を爆発させるための装置全体のこと。
【M1128 ストライカーMGSのリボルバー式自動装填装置】
しかも、本案のさらに大きな問題として、弾倉全体が砲身アッセンブリに固定されているように見えることだ。砲全体の重量が増加し操作性が悪くなるだけでなく、大きな弾倉が室内フロア部と干渉し、砲の仰角がほとんど取れなくなる。さらに射撃時の反動はどう処理する予定だったのか?本案には駐退機が見当たらず、そもそも後座しない構造になっているように見える。奇抜を通り越して無茶な案だと感じる……
「H.L.Yoh」社の計画案⑥: 緊急時の駆動方式 - その1
本案「予備履帯システム」は、主となる履帯の中に予備履帯を搭載することで、主要履帯が地雷や被弾によって破損し、行動不能になった際でも予備履帯で動力を得る駆動方式案である。予備履帯は、最後部の起動輪(*11)と3つの転輪(*12)にまたがり、主要履帯の内側に設置される。起動輪には通常の主要履帯を駆動させるギアと、予備履帯を駆動させるギアの2つがついている。通常走行時は両方の履帯が回る。
履帯の破損時は本来、搭乗員が車外へ出て修理を行う必要があり、修理に要する長い時間は非常に高い危険を伴う。本駆動方式案による重量増加はわずかだが、緊急時に搭乗員と戦車を救うことができ、ローリスク・ハイリターンを実現する。
※12: 「転輪」とは、地面に接する履帯部分を支え、緩衝装置によって上下に動き、衝撃を吸収する。「ロード・ホイール」とも言われる。
「H.L.Yoh」社の計画案⑦: 緊急時の駆動方式 - その2
本案「予備歩行システム」は、まるでロボットの歩行のように前後と上下に動くプレートを車体後部に搭載することで、主要履帯が地雷や被弾によって破損し、行動不能になった際でも、この「足」で動力を得る ”型破り” な予備駆動方式案である。
起動輪は、車体から伸びる動力軸と直に接続させずに、車体から飛び出るように後部へ設置する。ここで起動輪はチェーンによる接続を行う。この方法によって、起動輪内側で「予備歩行システム」の動力接続が可能になる。
歩行動作のみに焦点するなら、起動輪が1回転するごとに歩行できる距離は恐らく20cm程度。スケッチの右上に記載されいてる簡易図面を見ると、20cmを移動するごとにアームが上下し、ガイドプレートに設けられたスリットを1往復すると考えられる。まず、ガイドプレートとアームが耐えられず破損するだろう。これらの構造部は、単純な溶接では確実に ”もげ” る。材質だけでなく固定方法も別途検討する必要がある。
仮に各部品が耐えられたとしても現実的ではないと言わざる他ない。1辺40cmほどの板に十数トンの重さが加わり、決して遅くは無い速度で前後移動する訳だ。歩行用の足板が地面を掘り起こし、まともに移動できないだろう。
しかし、もう一度言おう。この案や表現が好きだ!技術の革新はスマートには行かない。このような狂気とも言えるアイディアの奥に答えが隠れていることもあるのだ。
「H.L.Yoh」社の計画案⑧: 斬新な重戦車案
砲塔後部にエンジンを搭載する重戦車案だ。エンジンの重量で砲塔の前後重量バランスがとれるため、砲塔後部のカウンターウェイトが不要となる。砲塔内には十分なスペースがあり、搭乗員の作業性が向上する。車体の小型軽量化が可能であり、車体の余分な空間には多くの砲弾と燃料を搭載できる。
また、スケッチを見る限りでは、エンジンから発生した1,000馬力近いパワーを、砲塔旋回ギアらしき物の下に設けられてた内歯歯車に対して、直に、減速機無しで接続されているように見える。この内歯歯車から車体へ動力が伝達され、履帯を駆動させるのだろうが……そもそも、この内歯歯車の支持はどうなっているのか。また、この部分で発生するトルクによって砲塔が内歯歯車の回転方向とは逆に回転するはずだ。さらに、この反トルク力を抑えるためにかなりのパワーロスが発生すると予想される。疑問は尽きない。
前編の記事に比べ、今回の内容では ”奇抜” を通り越して ”狂気” とも呼べるほどの計画案を紹介した。本記事の計画案の多くは、現実的に有り得ないものばかりではあったが、先に述べたように技術の革新はスマートに行くものでは無い。たとえその時点では狂気とも言えるアイディアだったとしても、試しにそのアイディアをスケッチや図面に起こすことで、真の答えに気がつくこともあるのだ。
「Yoh」シリーズついて調査するつもりが、次々に「H.L.Yoh」社の他の計画案が明らかになり、ますます謎が深まる結果になってしまった。そんな謎多き「H.L.Yoh」社が計画した「Yoh」シリーズはどのような戦車なのか?World of Tanksにはどのように実装されるのか?最新情報をお見逃しなく!
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