「H.L.Yoh」社の独創的な戦車計画案: 前編

アメリカ技術ツリーの新ルート追加計画を発表してから約半月が経過した。発表した記事や動画内では「Yoh」ルートが持つ特別な機能や、奇抜な見た目が重点的に紹介した。本記事では、そんな奇抜な「Yoh」シリーズを調査する過程で次々に明らかになった、「H.L.Yoh」社の独創的な開発内容を紹介しよう。

「H.L.Yoh」社へのコンタクト

戦車に詳しいミリタリーファンであれば「Yoh」のネーミングは「H.L.Yoh」という社名に由来していることに気付くだろう。「H.L.Yoh」社は当時アメリカ陸軍にいくつかの戦車計画案を提出していた会社であったが、その本質はエンジニア人材派遣会社だった。

「Yoh」シリーズに関わる資料は非常に少なく、調査は最初から難航した。現在出版されている書物からは「Yoh」シリーズに関連するものをほとんど見つけることができなかったのだ。

次の手段として「H.L.Yoh」社自体を本格的に調査することになったが、現在の同社ウェブサイトには人材派遣業務について記載されているのみ。戦車はおろか、機械製造に関わる内容もほとんど記載されていない。そこで、アメリカのペンシルバニア州にある「H.L.Yoh」社へ直接連絡を行い、社内書庫に関連書類が保管されていないか、直接調査を依頼することにしたのだが……内部の者ですらどこの棚に何の書類が保管されているか、全容を把握している者は非常に少なかった。

同社社員と共に「H.L.Yoh」社の書庫を調査した結果、1950年代の棚から戦車に関連する2つの資料が見つかった。1つは、とある自走砲開発に伴う人間工学評価が行われたもので、今回の調査には関係性が薄いものだった。しかし、もう片方は戦車計画案「Yoh」シリーズと少なからず関わりのある非常に興味深い内容だった。

この資料には、当時としては奇抜かつ独創的な様々な計画案が記されていた。どうやら「H.L.Yoh」社は、当時『既成概念にとらわれない斬新な戦車設計』を志していたようだ。その一部をご紹介しよう。

「H.L.Yoh」社の計画案①: 新規防盾と砲塔

砲の全体重量バランスを砲耳軸(*1)より後部に配し、砲操作性を向上させた。さらに、防盾を二重鋳込み成形(*2)によって制作することで、軽量化と空間装甲による防御性能維持を両立。また、防盾内に砲耳およびクレードル(*3)を一体化させ、この一体型防盾の内側で砲を前後移動できるよう支持することで、砲の後座(*4)を可能にする。

砲塔前面装甲には傾斜を付けて避弾経始(*5)能力を向上させ、砲塔前面の砲開口部と防盾間の接合部双方を擦り合わせるように湾曲させて隙間を最小限にし、この隙間にシール(*6)を行うことで完全な密閉を実現する。

※1: 「砲耳軸」とは、砲を上下に可動させるための支点のこと。「トラニオン」とも言われる。
※2: 「二重鋳込み成形」とは、高温で溶かした鉄を型の中に流し込み、鉄が冷えてから型を分解することで、求める形の鉄を作りだす「鋳造」による製造技術の1つ。鋳型の中に別の鋳型があるため、中空構造の複雑な鋳造品を製造できる。
※3: 「クレードル」とは、砲身や駐退機を支える台座のこと。「砲鞍」とも言われる。
※4: 「後座」とは、砲弾を射撃した際の反動を、砲身を後退させることで緩和すること。「リコイル」とも言われる。また、後座させるための装置を「駐退機」と言う。
※5: 「避弾経始」とは、装甲を斜めにすることで敵の砲弾を被弾した際の威力を逸らし、弾きやすくする概念のこと。
※6: 「シール」とは、物の間にある隙間をふさぐ部品や行為のこと。生活に身近なもので言えば、窓のガラス部分と金属部分の間にあるゴムパッキンなどもシールの1つである。

機能性と省スペースを両立できる非常に合理的な計画案であり、当時の要求を十分に満たせる内容だと感じる。特に当時の中戦車や軽戦車などの高機動戦車に向いた設計だ。

「H.L.Yoh」社の計画案②: 砲弾グラブ

砲弾グラブは重量物である砲弾を持ち上げる装填手を補助するために開発された。この砲弾グラブには、簡単に砲弾を掴み、放すことのできる機構と、車内の天板に取り付けられたウィンチによって掴んだ砲弾を楽に上下移動させる機能も持つ。装填手は左手で砲弾グラブを操作するため、右手を自由に動かせ、昇降中の砲弾を支えたり、砲弾を装填するための押し込む動作が可能となる。

砲弾を掴んだり放したりする機構の操作、およびウィンチの昇降ボタン操作を、砲弾グラブを握る左手のみで完結させる。左手全体でラッチを握りこむと砲弾が掴まれてロックされ、人差し指でトリガーを引くとロックが解除され砲弾を放す。また、親指で操作できる位置にウィンチの昇降ボタンが取り付けられている。さらに、使用しない際は車内の天板にコンパクトに収納できる。

面白い計画ではあるが、通常運用が想定される戦車が使用する中口径砲弾の重量では、このような装置を使用するよりも、訓練した装填手が行った方が明らかに早く、楽で、パーツ数も減らせると予想される。また、自走砲のような大口径砲弾の重量弾に対応させるグラブだった場合、恐らく掴む力をより強力にする必要があるだろう。より強力にした時に、砲弾の薬莢が変形しないかも気になるところだ。

「H.L.Yoh」社の計画案③: 装甲化された即応弾薬庫

第二次世界対戦では約9割の戦車が火災によって戦闘不能になっており、その火災要因のほとんどが、被弾時に発生した破片が戦車室内を飛び交って即応弾(*7)に命中し出火したものだ。即応弾を装甲化された本装置に収納しておくことで、被弾時に破片が砲弾に当たることを防ぐことができる。仮に破片が本装置を貫通し、装置内の砲弾に命中、発火したとしても、炎は装置上部に設けられた抜け穴から車外へ排出される。搭乗員や装備の安全性を飛躍的に向上させることが可能だ。

また、上記保護機能に加え、車長は次弾装填の弾種を口頭で指示する必要がない。車長の手元にあるコントロールボタンを押すと本装置内のモーターが動作し、自動的に砲手の手元に目的の砲弾が配置される。さらに、砲手は毎回同じ位置から砲弾をピックアップできるため、装填速度の向上も見込める。

※7: 「即応弾」とは、装填手の近くに配置されている砲弾のこと。実際の戦車(特に冷戦期までの多くの戦車)では、戦車室内のいたるところに砲弾を置いており、装填手に近い位置にある砲弾はすぐに装填することができるが、離れた場所にある砲弾は装填に時間がかかる。また、即応弾以外の砲弾は対破片ケースに入っていることが多く、ほとんどの即応弾は砲弾が剥き出しの状態で配置されている。

当時としては素晴らしい案だ。何ならイスラエルが開発した最新主力戦車「メルカバ Mk 4」が採用する弾薬庫に非常に近い設計である。想定されうる欠点は、設置時に多くの空間を必要とする可能性が高く、またこの装置が砲弾の爆発に耐えうる強度を有しているかだ。しかし、その懸念点を加味したとしても、50年も前に発案されたものだと考えると非常に興味深い。

「H.L.Yoh」社の計画案④: バスル配置型の自動装填装置

砲塔後部に、砲弾を横並びにした配した自動装填装置を搭載する。この案は、大きく分けて3つの部品で構成される。横並びに砲弾が収納されている弾倉と、弾薬庫の下部に配置されたコンベア、砲弾の装填と空薬莢排出を行うフックの3部品だ。

車長の手元にはコントロールパネルがあり、このパネルで希望する弾種のボタンを押すと、弾倉の下にある蓋が開く。重力によって落下した砲弾を受けたコンベアは、砲の中心軸へ砲弾を搬送し、フックがチャンバー(*8)内へ砲弾を押し込む。フックは砲身上で射撃を待ち、射撃後は排莢された薬莢を砲塔後部の排莢穴めがけて押し出し、戦車外へ排莢する。

本案では20発もの105mm砲弾を弾倉に収納でき、車長が希望する弾種をすぐに装填できるだけでなく、弾倉内の砲弾を撃ち切った後には手動装填も可能となっている。

※8: 「チャンバー」とは、砲弾が射撃前に収まる砲身後部の空間を指す。「薬室」とも言われる。

こちらの案も優秀で、現代の最新主力戦車の多くがが採用する自動装填装置とほぼ同じだ。それらの現代で採用されている自動装填装置と本案の違う点を挙げるとすれば、本案では弾倉からベルトコンベアへの砲弾搬送方法が自由落下であり、現代のものは強制的に搬送する機構になっている程度だ。

今回、前編では資料に記載されていた4つの計画案を紹介した。どの案も興味深く、2021年に世界中で活躍する現代主力戦車にも似た機構が搭載されているほど、非常に先進的な計画ばかりだ。これらが50年ほど前に発案されていた事実は武者震いするほどに興奮するが、しかし採用はされなかった。どのような理由があったのかまでは定かでは無いが……恐らく「時代が早すぎた」のだろう。

後編では、いよいよ「Yoh」シリーズで採用されている「予備履帯システム」を含む計画案を紹介するぞ。お楽しみに!

元記事: World of Tanks NA 2013年2月2日公開「The Chieftain's Hatch: The Wonderful World of Yoh」
https://worldoftanks.com/en/news/chieftain/chieftains-hatch-wonderful-world-yoh/

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