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チーフテンズハッチ - Firefly: Part 3

イギリスが開発した17ポンド戦車砲を搭載したM4シャーマンに関するアメリカ軍の評価試験。今回は最終回となるパート3だ。
はじめてこの記事を目にするなら、その前にpart 1part 2にも目を通してほしい。
今回の記事では締めくくりとして、最後に私の意見を加えてみよう。

では、評価基準で積み残したところから再開だ。

試験9: 装甲貫通力

誰もが好きな評価だ。

この性能評価については公式の数値が出されている。

 

目標となるのは大きさ4.5フィート x 5.5フィートで、厚さ6インチ(約16センチ)の装甲鈑で、これを約1000メートルの距離に置き、
30度の角度から砲弾を命中させた結果を見る。

APCBC弾は7.5インチ(約19センチ)の貫通力を発揮したが、SVDS弾には問題があった。結果は2種類の傾向が認められた。
そのうち一種類は命中角度が浅すぎて判定できず、残りは逆に76mm HVAP砲弾としてはこれ以上望み得ない命中となったらしく、
想定を大幅に上回る結果を出したのだ。
38発のSVDS弾を射撃したあとでこの傾向がはっきりとしたために、試験は中止された。

90mm戦車砲によるAPC弾およびAP弾については、通常の秒速2800フィート(約853メートル)から2600フィート(792メートル)に落とした状態で550発の射撃した結果であるが、関係者をかなり落胆させた。
しかしHVAP弾では用意された装甲鈑を立てかけていたM3中戦車の38ミリ装甲まで貫通した。

残念なことに資料からは76mm戦車砲の貫通力に関するデータが消えているのだが、HVAP弾の場合はSVDS弾と同様に「部分的に貫通可能」と評価されている。

  

試験10: 排莢動作

これは短い評価で済む。

17ポンド砲の射撃時には、排莢に関するトラブルは発生しなかった。76mm戦車砲も同様である。
90mm戦車砲もおおむね問題はなかったが、マズルブレーキで制動するタイプのHVAP弾を使用した際に、一度だけ排莢トラブルが発生した。

試験11: 砲身のブレ

10発のAPCBC弾が2発ずつ、5つのグループに分けられ、それぞれを使って距離100メートルの目標を連続で射撃する。
そして2発の弾丸の弾着のズレを測定するのである。この最後の評価試験において、(17ポンド砲は)左に0.78ミル、下方に0.15ミルほどずれた。
76mm戦車砲搭載のM4A3の場合、右に0.4ミル、下方に0.9ミル、M26戦車の場合は右に0.3ミル、下に1.3ミルずれた。

「兵器局では同じ戦車を使用した条件の下で各主砲の弾着のばらつきを試験評価した。
そして最大10回程度の試験の結果、各砲とも特筆するほどの差がないことが判明した」と報告書では結論している。

試験12: 仰俯角及び旋回機構

あまりおもしろくない評価試験にも触れておこう。細部は省略し、概要を伝えるに留める。

この評価では、経験豊富な4名の砲手が、別の戦車の車内配置などについて意見を交換しあう。
同時に各車のメカニズムや運用時の作業のしやすさの観点から内部スペースや配置も考慮する。

17ポンド砲用の仰俯角調整用ハンドルは、砲尾かなり前の方に位置していたため、手が届きにくく兵士には不評であった。
特に砲手が砲塔の旋回作業をしている間はかなり操作しにくかった。砲塔の旋回に動力が用いられるようになると、状況はやや改善する。
M4シャーマン戦車系のほうが旋回機能が優れていたので、この観点からは概ね成功であった。

17ポンド砲を搭載した砲塔の居住性は76mm戦車砲には劣るが、90mm戦車砲よりは良い。「しかし容積は一番狭い。

試験13: 砲のバランス

「17ポンド砲は釣り合い錘が据えられていて、未装弾状態の薬室付近に重心がある。APCBC弾が装填された状態だと、約350インチパウンドほどバランスが崩れる。76mm戦車砲の場合、装弾されている状態で釣り合いが取れるように錘が付いている。90mm戦車砲M3の場合、相応の駐退器が必要になるので、50000インチパウンドほどの不釣合いが生じてしまう」と報告書はまとめている。

76mm with counterweight is balanced when the chamber is loaded. The 90mm tank gun M3 is approximately 50,000inch-pounds out of balance and requires a coil spring equilibrator to reduce handwheel effort to a usable standard.”

試験14: 砲塔のトルク

報告書によれば、たとえ同じ型であっても戦車間のトルクにはかなりのばらつきがあり、比較試験にはそれほどの意味はなかった。
しかしM4シリーズに共通して、砲塔のトルクは200ft/lbsを上限とするよう求められていた。一方、17ポンド戦車砲を搭載した砲塔の場合、
水平状態で旋回させるには400ft/lbsが必要であり、20度の傾斜地では1000ft/lbsが必要であった。
結果としてファイアフライの砲塔は重量バランスが悪かった。

試験15: 動力による砲塔旋回装置

この評価試験では、単に砲塔の旋回速度を比べるのではなく、操作時の姿勢に応じた旋回性能も比較項目となる。
姿勢による旋回性能の変化は実戦では重要だ。ファイアフライの砲塔はM26パーシング戦車には劣るが、M4シャーマンよりは優れていた。

試験17、18: 射撃装置と安全性 (試験16は試験1と重複)

こちらは副次的な目的の試験だ。

「ペダル式の機銃射撃装置および主砲射撃装置は、車種にとって扱いやすい配置ではない。
だが現状はそれほど深刻ではなく、M4シャーマンの狭い砲塔内ではおそらく最善の配置である」との評価をファイアフライは獲得していて、
実際、戦場で両方の武器を使用しなければならない場面では、標準的なM4シャーマンよりも優れていた。

電気式トリガー(引き金)はM4シャーマンと共通している。

17ポンド砲の装填作業がすべて終わったら、装填手はリセットノブを操作して一連の動作を完了させる。
装填の手間が一つ増えはするものの、これは優れた仕組みである。
装填手が操作する安全装置であるが、砲尾環付近での作業を要するのは残念である。
76mmおよび90mm戦車砲の安全装置は、砲手によって操作される。

試験19: 砲尾の操作性

17ポンド法の砲尾周辺のメカニズムはかなりの完成度であったが、組み立て/分解作業は76mmおよび90mm戦車砲よりも複雑であった。
90mm戦車砲の砲尾重量は約46kg、76mm戦車砲は約18kgであるのに対し、17ポンド砲の場合は56kg近くもあるので、
この重量が整備性を悪化させていたといえる。
また、清掃作業などで砲尾を取り外す際には駐退ガードを先に外さねばならないなど、設計上の小さなミスもあった。

試験20: 駐退メカニズム

作戦行動上の有効性という観点であれば、この3種類の戦車砲の駐退メカニズムに実質的な違いはない。
厳密には17ポンド砲がやや扱いにくいのだが、実際に運用する上では無視できる程度の差異である。

試験21: 装填手用ハッチ

報告書には次のようにある「M26およびM4A3の装填手用ハッチは補助用の跳ね上げバネが付いているのでかなり使いやすく、出入りも簡単である」

概観

レポートは次のような評価表で締めくくられている。

 

評価は次のとおりだ。

a.) 17ポンド戦車砲Mk.VIIと砲塔の組み合わせはM26パーシング戦車(90mm戦車砲M3)やM4A3戦車(76mm戦車砲M1A2)と比較して、全般的に劣る。

b.) 17ポンド戦車砲Mk.VIIとドイツ軍の75mm戦車砲KwK.42は、中戦車に搭載する戦車砲にあり方に関して、優れた知見を提供している。

チーフテンの個人的感想

陸軍地上軍と戦車駆逐車委員会は、フォート・ノックスで実施した試験の結果に鑑みてファイアフライを採用するよりは、従来型の76mm砲搭載型M4シャーマンを使い続けると決断した。

この結論は妥当であり、判断の根拠も論理的だ。
「17ポンド砲にできて、M4シャーマンの76mm戦車砲にできないこと」に焦点を絞るなら、結論は明快だ。
どちらの戦車でも脅威となっていたドイツ軍の自走砲やティーガー戦車に対抗できた。
さすがにティーガーIIに真正面から挑むのは自殺行為でしかなかったものの、側面から攻撃すれば同様の破壊力を期待できた。
またパンターが相手の場合、どちらも至近距離でなければ正面装甲は貫通できなかった。
パンターに関しては、17ポンド砲の方が有効射程はやや長かったものの、実戦において意味を持つほどの差はない。
400~500mほどの近距離で接敵した場合は、具体的な貫通性能の比較などよりも、装弾や発射速度、狙いのつけやすさが重要であり、
76mm戦車砲搭載のM4シャーマンのほうがずっと優れていた。また弾薬搭載量も大きいし、5人目の乗員がいることで、車載機銃の操作も容易であった。
戦場の変化に臨機応変に対応する能力は76mm砲搭載型のほうが優れていたのだ。

しかしイギリス陸軍はこの意見に同意するだろうか?私はイギリスが保有する書類を調査した。結果がこの表だ。

ざっと見る限り、この表では17ポンド砲が良好な結果を出している。避弾経始が発生しない状態であれば、
パンターの正面装甲を距離2kmで貫通できるが、76mm戦車砲ではそれより半分以内の距離まで接近しなければならない。
HVAP弾はイギリスが基準としていたスペックの傾斜装甲を貫通できなかったが、17ポンド砲のSVDS弾は1kmの距離で威力を見せている。

もちろんこれを否定する評価もある。
詳しくは以前のレポートUS Guns German Armor Part 1(※リンク先はNAサーバーの英語の記事となります)を参照してほしい。

有効射程の問題となると、76mm戦車砲でパンターの車体下部の傾斜装甲を貫通するには、相当な距離まで接近しなければならず、
またSVDC弾は5フィート×2フィートの的に対する命中率が約14%であった。
76mm戦車砲用のAPC弾は(HVAP弾ほどの精度はないものの)同じサイズの的に96%の確率で命中した。
これらを総評すると、76mm戦車砲搭載のM4シャーマンは長距離射撃が得意ということになる。命中しなければ、貫通力を議論しても意味が無い。
ファイアフライが十分な命中を期待できる距離を詰めるまでに、76mm戦車砲搭載のシャーマンは、ほどほどの距離で有効弾を射撃できるのである。

それではなぜ、ファイアフライは「最高のシャーマン」という栄光と評価を一心に受けたのか?

私が思うに、ファイアフライは望まれた場所に十分な数が存在していたからではないだろうか。
戦車が優劣を論じる以前の問題として、イギリス陸軍はこの戦車を大量にノルマンディに投入することを決断した。
一方で、76mm戦車砲搭載のシャーマンと、この砲で使用されるべきHVAP弾はイギリス本国に留められていた。
アメリカ陸軍では現場から兵站まで、この戦車を取り立てて必要な装備とは考えていなかったのだ。
砲弾の種類が増えれば、その分、補給の作業量は煩雑になってしまう。
またAP弾が十分にあるのに、なぜ高価なHVAP弾を用意しなければならないかという疑問も生じていた。

このような想定に立つと、アメリカ軍はただ単に判断ミスをしていただけなのだ。戦車が悪かったのではなく、開発者にも責任はない。
もちろん、76mm戦車砲搭載型のM4シャーマンが投入されたからといって、ファイアフライの評価が下がるわけではないが、
「最良のシャーマン」という言い方まではされなかったであろう。
またファイアフライを選択しなかったことが、アメリカ軍の判断ミスであると後世に批判されることもなかったであろう。

つまるところ、政治的な決断が影響したということだ。76mm戦車砲搭載のM4シャーマンの製造は、ノルマンディー上陸作戦の6ヶ月前に始まったことであり、十分な数を作戦前に確保できなかった。HVAP弾の数も不十分ではあったが、そもそも、この砲弾の重要性が共通認識とされていなかっただけに、どのみち生産計画における重要性は低かったのだ。76mm戦車砲搭載のM4シャーマンは優れた戦車であった。ただ、それを戦場で証明する機会だけがなかったのだ。

フォーラムではこのような議題について活発な意見交換が行われている。
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