以下はErmelinda Jungの日記の抜粋だ。
自制心を持て。あの人の口癖。「自制心は品位の表れだ。お前のような美しく聡明な娘に派手なドレスは必要ない。自制心こそが魅力を際立たせる」なんてよく言われた。
パパはホントに古風だよね。本名はMaximilian Leonard von Krieger-Witthoffen。レーデンスブルク男爵。そんなこと言われなくても、私はドレスよりオイル塗れの作業着の方が好き。でも正直なところ、自制だなんだはちょっと納得がいかない。いつまでも子供だと思ってる。いまだに《おてんば娘》なんて本気で言ってるのかな。これでも工学博士なんだけど。ちょっとだけ気分屋で自分に正直なだけ。
パパは貴族として生まれ、貴族として育てられた。優れた科学者でありながら、世間に理解されず過小評価されている天才。人類の進歩のために研究に明け暮れてる。なのに「アライアンス」のヤツらはパパを捕まえようと躍起になってる。基地を攻撃して貴重な研究の時間を奪うのも厭わない。きっとあの女のせい。パパへの私怨。名前はたしか……、Evillanelleだったかな……?
《自制》なんてしてる場合じゃないよね。パパは何度も情けをかけてきたのに。ヤツらは何も学ばない。時代遅れのツギハギ技術で改造したオモチャなんて進歩でもなんでもない。なのにまた攻めてくるなんて、身の程知らずにもほどがある。きっと負けてもお偉方に叱られるくらいにしか思ってないのね。
それなら、戦い方を変えなくっちゃ。組織内での評価だけじゃない。痛みと苦しみを味わわせてあげる。ちょっとやり過ぎくらいでちょうどいい。科学の進歩に犠牲はつきものだもん。ヤツらはパパがいないことを知ってるのかな。相手が助手だからって甘く見てるなら、すぐに後悔させてやる。
パパはちょっと理想主義に傾倒しがち。理論好きだから当然だけど。あの人はまさに《頭脳》。強力な兵器を生み出す《頭脳》。でも私は違う。私は兵器を作り上げる《手》。誰かを優しく撫でるのも、叩き潰すのも私の気分次第。私はパパほど優しくない。
ここはうちの庭みたいなもの。追いつめてるつもりなのかもしれないけど、実際はどうかな?「ハーリア隊」の連中がやってきたら、ちゃんとお迎えしてあげなくちゃ。プレゼントは何がいいかな?前回は自律型の哨戒車輌をたくさん作ったから……。今回はもっと豪華に、Waffenträgerをたくさん用意するのはどうだろ?
それにしても残念!この日記が喋れたら、ふたりでワクワクを分かち合えるのに!キミはきっと恐れ慄いて、「Ermelinda!そんなことしちゃダメだ!お父上が戻られて、Waffenträgerで埋め尽くされた戦場を見たら、卒倒しちゃうよ!」とでも言うんじゃないかな。
これじゃ《おてんば娘》って呼ばれても文句は言えないね。ひとりにされると寂しがって、気晴らしに周囲を掻き回すなんて、まるで中学生の女の子だもん。
でもこのくらいのイタズラなら、誰も気にしないよね?