【開発秘話】イギリス装輪式中戦車

戦車長の諸君!

イギリス装輪装甲車は、誕生の時から現在に至るまで大きな進化を遂げてきた。技術の発展に伴い、その設計や戦場での役割こそ変われども、近現代の戦争の在り方を決定づける重要な位置づけを担い続けている。そんな装輪装甲車の歴史を、ボービントン戦車博物館の全面協力のもとデジタル化された歴史的資料とともに振り返っていこう。

さらに、これらの装輪装甲車が『World of Tanks』に実装されるまでの道のりについても紹介していくぞ。


装輪装甲車の誕生

軍用の装輪装甲車の歴史は20世紀初頭まで遡る。装甲車は、長らく兵員の移動や物資の輸送を目的として運用される存在だった。しかし、イギリスは、偵察、通信、あるいは緊急展開における装輪装甲車のポテンシャルに注目し、本格的な開発に乗り出すことになる。この時期の装甲車は、偵察や輸送に重きを置き、戦闘への参加を想定していなかったため、オープントップの設計が採用され、装甲は薄く、比較的軽武装なものが多かった。

軍事技術の発展に伴って、装甲車に求められる役割や性能も自ずと変化していった。特に第二次世界大戦中には、全周旋回式の砲塔や口径の大きい主砲を搭載するようになり、速度と俊敏性、そして火力をバランスよく兼ね備えた他にはない存在へと進化を遂げた。この時代の装輪装甲車は、偵察や哨戒の性能はそのままに、機動性と火力が強化され、地形適応能力も向上している。

冷戦期に入ると、戦争そのものの形態、そして軍事行動の根本的な考え方が変わっていく。技術的な進歩も相まって、イギリス装輪装甲車もさらなる進化を迫られることになった。この時期には、兵装と装甲の強化が進められたほか、 主たる役割も純粋な偵察のみならず、装甲を活かした味方への支援、あるいは非正規軍の鎮圧作戦など、広範なものへと広がっていく。


イギリス装輪装甲車の年表

装輪装甲車の性能や役割が時代の変化とともにどう変わっていったかを概観したところで、イギリス装輪装甲車の具体的な発展の歴史を見ていこう。

  • 1914
  • 1922
  • 1940
  • 1941
  • 1942
  • 1943
  • 1952
  • 1959
  • 1973
  • 1996

1914年-第一次世界大戦で「Rolls-Royce Armoured Car」が初めて実戦投入される。その名の通り、高級車メーカーのロールスロイス社が製造した装甲車で、1門または2門の機銃を搭載していた。偵察や斥候といった戦場での味方への支援を行える装甲車へのニーズに応える形で開発され、

イギリス海軍航空隊によって主に北アフリカと中東で運用された。有名な例では、『アラビアのロレンス』の基になったイギリス将校、T.E.ロレンスがトルコ軍との戦いで使用し、大きな成功を収めたことが知られている。一方で、塹壕戦が展開されたヨーロッパ戦線では目立った戦果をあげられていない。

1922年-アイルランド内戦において「Rolls-Royce Armoured Car」が再び実戦投入される。すでに旧式化していたものの、いわゆる親英派にあたる《英愛条約派》によって運用され、偵察や兵員の輸送、そして機銃による歩兵部隊の支援まで、幅広い役割を担った。

1940年-「ディンゴ」の愛称でも知られる「Daimler Scout Car」の運用が始まる。ダイムラー社が製造した2人乗りの装甲車で、信頼性と偵察性能の高さから好評を博した。サイズがコンパクトだったことから、大型の車輌では侵入できない場所でも運用できただけでなく、設計上の汎用性が高く、通信や指揮のための車輌としても用いられた。1974年に退役するまでに合計6,000輌以上が製造されている。

1941年-「Humber Armoured Car」が実戦投入される。ロータス・グループ社によって製造された4×4輪駆動の車輌で、当初は機銃を搭載していたものの、後に37 mm砲に換装されている。1944年6月6日にノルマンディー上陸作戦が決行されると、その約1週間後に同地の海岸線に配備されたことでも知られる。優秀な機動性と走行速度に対する評価が高く、偵察や哨戒など、多くの任務をこなしながら連合軍の進軍を支援した。約5,400輌が製造された後、第二次世界大戦の終結を受けて1945年に退役している。

1942年 – 「AEC Armoured Car」の運用が始まる。『World of Tanks』のイギリス装輪式中戦車ルートを構成する最初の1輌にあたる。同ルートには実際に大量生産された車輌が3輌存在し、そのうちのひとつである。アソシエイテッド・エクイップメント・カンパニー社(AEC)が軍用の牽引トラック「Matador」をベースに開発を進め、1941年に完成した。時の首相、ウィンストン・チャーチルに高く評価され、すぐさま120輌の生産が決定すると、1943年に中止されるまで、合計約629輌が製造されることとなる。

本車輌には、「Valentine Mk. II」の砲塔を採用した「Mk I」、車体前部を改修し、158馬力のエンジンと6ポンド砲を搭載して総重量が増した「Mk II」、そして75 mm砲を採用した「Mk III」という3つのモデルが存在する。4×4輪駆動の構造を採用したことで、重武装ながらもイギリス装輪車輌のトレードマークとも言える高い機動性を維持することに成功しており、加えてかなりの悪路でも旋回できたことから、偵察や哨戒を行う際に極めて大きな力を発揮した。さらに機動性を活かした火力支援や通信機器によるリアルタイムの情報伝達など、歩兵部隊との連携においても大きな役割を果たした。

1943年- アメリカのシボレー社が開発した「Staghound Mk. I」がレンドリース法に基づいてイギリスに供与される。本車輌は、優れた機動性と37 mm砲や75 mm M6砲を活かして、北アフリカ、ヨーロッパ、太平洋など、様々な地域で戦果を上げた。戦場や運用目的に応じた種々の改修がなされ、「MK. III」では「Crusader」の砲塔が採用されている。『World of Tanks』では、この「Staghound MK. III」がTier VI車輌として新ルートに登場する。

1942年から1944年までに推計3,844輌が生産され、戦後に入っても第一次中東戦争(1948年)、キューバ革命(1953年~1959年)、ベトナム戦争(1955年~1975年)など様々な紛争に投入されている。

1952年-「Ferret Scout Car」が配備される。ダイムラー社が生産した車輌で、エンジンにはロールスロイス社製の130馬力のものを搭載し、最大速度は58 km/h、オフロードでも優れた走行能力を発揮した。主兵装として砲塔に.30口径の機関銃を搭載している一方で、乗員数がわずか2名と少なく、サイズが小さいことから簡単に空輸することができた。1991年に退役するまで40年近くにわたって運用され、合計約4,500輌が生産されている。

1959年-「FV601 Saladin」が完成する。クロスリー・モーターズ社が設計し、アルヴィス・カー・アンド・エンジニアリング・カンパニー社が生産を行った。ロールスロイス社製の170馬力エンジンを搭載した6x6輪駆動の装輪式車輌で、機動性、火力、適応能力をバランス良く備え、主として偵察と火力支援を担った。兵装には弾速に秀でた76 mm砲と同軸機銃を採用していたことから、機甲部隊と歩兵部隊のどちらに対しても火力を発揮することができた。イギリス軍は言うに及ばず、オーストラリアやヨルダンなどでも運用されている。本作には、新ルートのTier VIII車輌として登場する。

世界各国で実戦投入されており、中でもアデン危機(1963年~1967年)、北アイルランド紛争(1966年~1998年)、第三次中東戦争(1967年)、トルコによるキプロス侵攻(1974年)が代表的な例として挙げられる。「Saladin」は、こうした数々の紛争を通じて、機動力に秀でた装輪装甲車の重要性を全世界に知らしめた存在と言っても過言ではない。1972年に生産が終了するまでに約1,177輌が製造されている。

1973年-「FV721 Fox CVRW」が開発される。「CVRW」は 「Combat Vehicle Reconnaissance (Wheeled)」の略にあたる。「Ferret」や「Saladin」に変わる新兵器としてアルヴィスPLC社によって生産された。設計面では4x4輪駆動の構造に、ジャガー社製の190馬力リアエンジンを採用している。最大速度が64.6 km/hと高く、主に偵察車輌として運用された。砲塔は全周旋回式のものを採用し、主砲には30 mm砲を搭載している。湾岸戦争(1990年~1991年)における「砂漠の嵐」作戦や「砂漠の盾」作戦で活躍し、1993年に退役した。

1996年-イギリスが「Boxer」計画への参加を決定する。「Boxer」は、1993年にドイツとフランスが共同で開発を始めた装輪装甲車である。イギリスは1996年に参加を表明した後、2003年に一度は撤退するものの、2018年に再び参加している。「Boxer」は、8輪の車輪を搭載し、エンジンには711馬力から850馬力のものを採用している。車台に「ミッション・モジュール」と呼ばれるパーツを搭載しているのがひとつの特徴で、これを用途に合わせて交換することで、様々な任務に対応できるようになっている。そのため、用途は非常に広範にわたり、偵察や火力支援はもちろん、兵員の輸送、医療後送なども担うことができる。また、搭載できる兵装も、機銃から対空兵装、戦車砲、さらには誘導ミサイルと幅広く、従来は複数の種類の装甲車が担った役割を1輌でカバーできてしまう。


イギリス装輪式中戦車が『World of Tanks』に実装されるまで

『World of Tanks』にイギリス装輪式中戦車を実装する計画が持ち上がってからそれが実現するまでに、なんと4年もの時を要している。これは、歴史的な正確性と既存のゲーム環境の双方に注意を払いつつ、ゲームで使用できる《キャラ》としての魅力や楽しさを確立するにあたり、かなりの数の工程を経なければならなかったためだ。以下では、そのステップを簡単に紹介しよう。

1. 構想

新ルートの実装にいたる道のりは、「これまでにない斬新なメカニズムとは何か?」という疑問から始まる。まずはこの疑問に対してできるだけ多くのアイデアを出し、ブレインストーミングを行う。

2. 車輌の選定とツリーの構成の決定

中核をなすメカニズムが決定したら、続いてそのコンセプトにあった車輌の選定を行う。Tierが上がるにつれてルートの特徴が徐々に際立っていくよう、史実とゲームプレイのバランスを取るのは、思いのほか難しいことが多い。

3. 機械工学に基づくモデリング

車輌の選定が完了したら、次に行うべきは機械工学に基づく精密なモデリングだ。リアルさにこだわったゲームにとってはとりわけ重要なプロセスと言える。逆接的に聞こえるかもしれないが、ルートに架空の車輌が含まれる場合こそ、精密なモデリングがモノを言う。

4. ミリタリーアドバイザーによる精査

リアルさを実現するうえで欠かせないのが、公文書館などに保管された設計図、スケッチ、写真などの歴史的資料だ。実物が存在する場合には、3Dスキャンなども積極的に活用する。イギリス装輪式中戦車は、ボービントン戦車博物館の専門家たちの入念な研究をベースに開発されているため、とりわけ再現性が高い。

5. ゲームへの落とし込み

十分な情報やデータが集まったら、次はそれをゲーム内に落とし込んでいく作業が始まる。精密なハイポリ3Dモデルをゲーム内で再現しつつ、スムーズでリアルなゲームプレイを担保することは時に困難を極める。

6. 技術的な設定とテストの実施

続いて必要になるのが、作成された3Dモデルがゲーム内でスムーズに動作するよう、安定した技術的システムを構築する作業だ。テストを重ねながら、細かい仕様や設定を決めていくこととなる。

7. パラメーターの決定

大まかな仕様が決定したら、性能諸元を調整していくことになる。プレイヤーにとって一番気になる部分ともいえるだけに、既存の環境とのバランスを考慮しつつ慎重な調整が不可欠だ。

8. 正式リリース

以上のような工程を経て、イギリス装輪式中戦車はアップデート1.22で晴れて実装されることとなった。史実とゲームプレイがバランス良く融合しているはずだ。ぜひ『World of Tanks』でぜひお楽しみいただきたい。


歴史を知ったらあとはプレイするのみ!

新車輌の開発秘話はいかがだっただろうか?現在、『World of Tanks』ではイギリス装輪式中戦車ルートの実装を記念したイベント「オール・ホイール・ブリタニア」が開催されている。新車輌を駆使してミッションを達成すると、イギリスをテーマにした様々なカスタマイズアイテムを手に入れることができる!開催期間は9月25日まで。今からでもまだ遅くはないぞ。


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