ベルリンマップ:開発秘話

戦車長の皆さん!

アップデート1.9.1でランダム戦に導入された「ベルリン」マップはもう体験しましたか? このベルリンマップは、『World of Tanks』のオリジナルのタッチを加えつつも、第2次世界大戦時のベルリン市街の様子を緻密に再現しています。

今回はこのマップの制作担当者を直撃し、マップの開発秘話を聞いてきました。それでは制作の舞台裏をお楽しみください。

ベルリンマップ:時間の経過と共に変わりゆく街並み

マップの開発は実はとても複雑です。「よし、次はベルリンマップを作ろう!」と決めてから、いくつもの段階を経て、やっとゲームに実装できるのです。この記事では、開発の第1段階のプレプロダクション・フェーズを中心に、開発フェーズ、そして実装フェーズまでを追っていきます。

マップのコンセプトが決まってからゲームに実装されるまでは、1年以上の時間がかかります。そんなに時間がかかるの? と驚かれる方もいるでしょう。でもこの約1年の開発期間に不必要なステップはなにひとつないのです。それでは、一つひとつのフェーズを見ていきましょう。

プレプロダクション

ベルリンマップを例に見ていきましょう。マップの設定が決まったら、プレプロダクション・フェーズの始まりです。プレプロダクションはマップ制作の基礎です。マップの土台となるとても重要なフェーズです。

レベル・デザイン

可能な限り多くのプレイヤーと幅広いプレイヤー層に楽しんでもらえるマップを作ることが目標です。難しいのですが、理想はすべての車輌タイプと役割が参加できるマップです。頑丈な装甲を活かした戦術を試せるエリア。長距離から支援できるスポット。近接戦のガチンコバトル。マップに多様性を持たせることで、同じマップ上でプレイスタイルと戦術が異なる戦闘が繰り広げられるようにしたいと考えています。そして最も重要なのが、どちらのチームにも、なるべく公平になるように設計することです。例えば、北側の陣地近くに砲塔装甲を活かせるポジションを作った場合は、南側チームにも同じような条件のスポットを作るようにしています。

ヒートマップ:均等なバランス配分

理想は、どちらかのチームが大きく不利にならないようにしながら、すべてのプレイヤーに楽しんでもらえるマップを作ることです。もちろん、それぞれのマップの雰囲気や個性を楽しんでもらうことも重要です。これらをバランスよく織り込むのは、いつも分析と試行錯誤の繰り返しです。

レベルデザインは最長で3か月かかることがあります。マップが対象になるようにデザインするか、それとも非対称にするかもこのフェーズで決定しなければなりません。対象の場合は比較的バランス配分には時間がかかりません。対象と言っても、完全に対象というわけではありませんが。非対称の場合はバランス配分に苦心しますが、その代わりに多様性に富んだ独特のマップを作り出すことが可能です。非対称マップのバランス配分は辛いですかって? そんなことはありません。寝ても覚めてもバランス配分を考え続けているくらい、とても興味深いんですよ。

ルート

ヒートマップ:ルート

特に非対称のマップの設計で重要になってくるのが、侵攻ルートの設計です。どちらのチームにとっても、勝利を掴むチャンスが平等にあるようにルートを設定しなければなりません。そのため、ルートのレベルデザインについては、他の要素から独立して行っています。

レベルデザインが完了すると、次はマップのビジュアルのデザインです。

ビジュアル・デザイン

ビジュアルのデザインと言っても、単に建物の外観や配色をデザインするだけではありません。マップがプレイヤーに与える印象を総合的にデザインします。このマップに足を踏み入れた瞬間、プレイヤーにどんな感情が湧き上がるのか。ひと目見た印象は?

そういった抽象的なものから、外観や色彩などの具体的なものまでをデザインしていきます。そのために、このビジュアル・デザインは複数の部門に分かれており、それぞれがベストを尽くしながら、お互いに歩み寄り、ビジュアル・デザインを総合的に完成させていきます。

ベルリンマップ:港

視覚で伝える物語

これまで『World of Tanks』に登場したほとんどのマップと同じように、「ベルリン」マップも実在する都市――ドイツの首都ベルリンを基にデザインされています。

時代設定は「ベルリンの戦い」の頃の第二次世界大戦末期。1945年当時のベルリンはどんな様子だったのでしょう? 場所と時代設定が決まると、当時を再現するためのリサーチが始まります。市街の建物や道路、遠方に見える風景は? ベルリンが陥落したあと、街はどのように変わったのか? ベルリンで実際に目にすることができる有名なモニュメントや建造物。そのうちのどれをマップに入れるべきか? 

ベルリンへの空襲で多くの建物が破壊されました。そのうちのいくつかは再建され、今日でもその姿を市内で見ることができます。しかし歴史的に重要度が高い建物の中には、再建されずに取り壊されたものもありました。

1945年当時のベルリン市街の地図にゲーム内マップを重ね合わせた画像

歴史的に重要な都市のマップを制作する際は、ひと目で「この都市だ!」と分かるようなデザインにすることと、歴史的そして物理的に忠実に再現することの両方が求められます。1945年頃のベルリン市街を再現する上で最難関の課題でもありました。まるでベルリンに居るような景色と歴史的な正確性を守りつつ、多彩なプレイスタイルが楽しめるデザインにしなければならないのです。苦労はしましたが、やりがいのあるプロジェクトでした。

雰囲気と光の明暗

市街のレイアウトや建造物を再現したら、次は1945年当時の雰囲気作りです。戦時中の雰囲気を出すために、照明の明るさや、光の明暗を調整します。さらには臨場感あふれるBGMとリアリティ溢れるサウンドエフェクトを設定します。戦闘の臨場感や緊迫感を出すことも重要ですが、プレイヤーの集中力の妨げになってはいけません。そのバランスが雰囲気づくりの難しいところです。

エリアと記念碑

ベルリンは大都市です。この広大な都市の一部を切り抜いてマップにするわけですが、有名な建物や広場、記念碑などがより多くあるエリアを選びつつ、ダイナミックで多彩なゲームプレイが実現できる場所でなければなりません。何度も話し合いと検討を重ね、ミッテ区にある国会議事堂とブランデンブルク門のエリアを選ぶことにしました。どちらの建造物もベルリンのシンボルと言っていいくらい有名だと考えたのです。

実在のベルリン市街に限りなく忠実に再現させたい一方で、車体の大小や役割に合わせて、街並みを調整する必要がありました。例えば、高スピードでレスポンスのいい軽戦車は、市内を走り回って敵を発見できるようにしなければなりません。待ち伏せを得意とする駆逐戦車には、その大きな車体を隠せるエリアが必要です。中戦車に関しては街中のいたるところで活躍の場があるのですが、しいて言えば、敵の側面を突けるような勾配のあるエリアを作りたいと考えていました。重戦車には細い路地での激しいガチンコ対決ができるスポットが必要です。もちろん自走砲も忘れてはいけません。

ベルリンマップ:1945年当時の国会議事堂の想像図。 300以上もの資料を研究し、当時の国会議事堂を再現しました

ひと目でベルリンだという印象を与える街並みを再現しながらも、楽しくてバランスの取れたゲームプレイになるようにバランスを調整するのが、このフェーズの最難関であり、醍醐味でもあります。

動的要素とイベント

エリアについてのデザインが決まったら、次は戦場のコンセプトです。これまでの経験から、『World of Tanks』には1,000平方メートルのマップがちょうどいいことがわかっています。大きすぎてチームワークが極端にバラバラになってしまうこともなく、小さすぎて一か所に集中してしまうことがないからです。敵陣へのルートや側面攻撃を仕掛けるルートも適度な距離があります。また味方のサポートに駆け付ける際も、それほど長い時間はかかりません。マップが大きすぎてしまうと、味方にも敵にも遭遇することなく目的地に着いてしまいかねません。それでは戦闘ゲームとしても面白みがなくなってしまいます。もちろん技術的な面から見ても、大きすぎるマップはレンダリング処理が重くなり、プレイヤーのPCに負荷がかかってしまうので好ましくありません。

ベルリンマップの面積は通常の1,000平方メートルよりも少し大きい1,050平方メートルです。少し広くしたことで、破壊可能な建造物や、防御に使える瓦礫をマップに配置することができました。さらに空に浮かぶ雲や、延焼する建物から立ち上る煙、市街上空を横切る航空機など、プレイヤーが触れることができない要素を入れ込むことで、マップに広がりを持たせ、臨場感を高めています。

地形と環境

地表や地形が戦車の足回りに影響を与えることはもうご存知でしょう。舗装された「道」は通常は地盤が固い地表です。舗装された道の上を走行しているかぎり、走行性に対するペナルティはほぼありません。草地になると、少々影響がでてきます。特に旋回速度が遅くなります。ぬかるんだ軟地盤では、履帯と地表の粘着摩擦が少なくなり、加速に影響がでます。マップには砂漠や山岳渓流、市街地など、地盤が異なるエリアがあります。どのエリアをマップに配置するかは、地形によって決まります。それから茂みや立ち木、丘、岩などの要素を配置していきます。

草原で覆われたオープンエリアをどこに配置する? ここに車体を隠せる林を作ったらどうだろうか? 道路はどこに配置するのがベストか? 実在の地形を忠実に再現するべきか? それともゲームプレイのために調整するべきか? 地形がプレイスタイルに与える影響は絶大です。そのため、特定のプレイスタイルのみに有利にならないように慎重にデザインしなければなりません。このバランスを誤ると、戦闘の流れが著しく変わってしまいます。

こういった理由から、マップひとつあたりの茂みや立ち木の数を制限していません。茂みや立ち木の数は、時には外観的な理由から決めることもありますが、主にはゲームプレイのバランスで決めています。もし外観的な理由から配置した茂みや立ち木がゲームプレイの妨げになっている場合は、外観を無視して取り除きます。それというのも、ほとんどの茂みや立ち木の隠蔽率は50%で、ゲームプレイにとってはとても重要な要素だからです。隠蔽率25%の茂みや立ち木は、そのほとんどが装飾目的で配置されたものです。50%の茂みや立ち木は葉が覆い茂っているのに対して、25%のものは枯れ木か、焼け落ちる寸前の木になっています。

色分布

プレプロダクション最後のステップでは、マップの色分布を決めます。どのような色分布にするかは、様々な要素によって決まります。例えば、地形や季節、時間帯、どれくらい激しい戦闘が行われたかなどです。もちろん色分布を決める際は、ゲームプレイも考慮しなければなりません。

マップの各エリアを異なる色のトーンで分けることで、プレイヤーは無意識にマップのどのエリアに居るのかが分かるようになります。マップの反対側にオープンエリアと丘があるとします。白/灰色のトーンを使ってそのオープンエリアと丘を区別させたい場合は、白い雪や、灰色の砂利を配置したり、住居用の白い建物を配置することがあります。深緑や濃褐色を使う場合は、延焼した立ち木を配置するかもしれません。色でエリアを区別させる際は、そのマップの雰囲気を壊さないようにすることも重要です。


プレプロダクション・フェーズが完了すると、設計図の完成です。とはいっても、まだ机上の卓論でしかありません。ここから実際にマップを制作する開発フェーズに入ります。この開発フェーズで、これまでのすべてのコンセプト、アイディア、設計図、デッサンがひとつになってマップに命がふきこまれるのです。ここまでも長い道のりでしたが、ここからさらに3、4か月かかることがあります。そしてQAフェーズでは綿密なテストが行われます。マップのバグはもちろん、プレイスタイルによる有利・不利がないかなどもチェックします。

ベルリンマップはアップデート1.9.1でランダム戦に導入されました。ベルリンマップのプレイヒントや詳細はこちらの記事で確認しましょう! またベルリンマップの動画もあわせてご覧ください。

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